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不妊・不育ホットラインで、実際に電話相談に応じている女性カウンセラーによるエッセイを、不定期で配信していきます。

第1回 不妊・不育のつらさ、喪失感

子どもを望んでいるのに妊娠しない…それが「不妊」という状態です。また、妊娠しても流産を繰り返してしまうのが「不育」です。現在、日本では夫婦の4.4組に1組が不妊と言われていて、決して珍しい問題ではありませんが、ほとんどの人にとって思いもしなかったことでしょう。「避妊をやめればすぐ子どもができると思っていたのに…」と、不妊という事態に直面してショックを受ける方はとても多いのです。

1997年1月に「不妊ホットライン」がスタートしてもうすぐ30年、2012年からは「不妊・不育ホットライン」と名称変更し新たなスタートを切りました。2025年3月までの相談件数は17,686件にのぼります。この間、社会は大きく変わりました。不妊に関わることでも、不妊専門クリニックの増加、治療の高度化、インターネットで情報入手が簡単になり、2022年4月からは保険適用となるなど、様々な変化がありました。それに伴い、寄せられる相談内容も多少変わりましたが、不妊・不育に直面している方の心の悩みは驚くほど変わっていません。そして、その悩みはとても複雑です。

人生には、大切な存在を失うことや、病気や事故で体の機能を失うことなど、誰もが心の危機に直面するような喪失体験があります。望んでも妊娠しない、流産をくり返す、といった不妊や不育も喪失体験のひとつです。

「今月も妊娠しなかった。期待と落胆のくり返しが苦しい」、「女性として産めないことが悲しい」「男性の自信を失った」といった自己像や有能感の喪失。「『お子さんは?』という挨拶代わりの言葉に傷つく」「親戚や友人の集まりがつらい」といった対人関係上の悩み。「妊娠が全てになり生活が生理周期に縛られる」「夫婦関係がぎこちなくなり会話が減った」などと語られるように、性と生殖が管理され、パートナーとの親密性を失うという喪失も。

度重なる流産に苦しむ方たちは、実際に産まれた子どもを亡くすのと同様の深い哀しみを抱えます。「産んであげられない自分の体を責めてしまう」「次の妊娠が怖い」という切実な声も寄せられます。

その他、多額の医療費や時間、エネルギーなども含め、不妊・不育は様々なものを失う、複雑で多重的な喪失体験であり、他のあらゆる喪失と同様に、衝撃や怒り、落ち込み、孤立感、悲哀などが伴います。身近な人の妊娠にも心を痛め、時には怒りや嫉妬を感じ、「友達の妊娠を喜べない自分が情けない」「嫌な性格になってしまった」と自分を責め苦しむ声がよく聞かれます。

こんなとき私たちは、話に耳を傾け共感しながら、「そんな気持ちになるのも当然。性格が悪くなったわけではありません」「私もそうでしたよ」などと伝えます。

不妊・不育は、かつて経験したことのない困難にさらされる体験です。当ホットラインは当初からそこに光を当て、怒りも悲しみも、傷つきやすい心の動きも、誰もが安心して話せる場として開かれてきました。

話すことで初めて自分の本当の気持ちに気づくこともあります。心の痛みやストレスを和らげ、その人らしい選択へとつながっていくかもしれません。

中には「妊娠できました!」とか、「パートナーとの関係が良くなりました」という報告を頂くこともあります。結果的に子どもを得られなくても、「不妊・不育という体験をしたからこそ気づいたこと、得られたものも大きかった」「このことがあったから今の自分がある」というお声も寄せられています。

時々、「…愚痴になっちゃうけど、いいですか?」と遠慮がちに電話を下さる方がいますが、それも大歓迎!愚痴の中にこそ大事な気持ちが含まれています。皆さんと同様の経験をしてきたピア(仲間)相談員として、これからも共に感じ、考えていきたいと願っています。

(東京都不妊・不育ホットライン相談員)