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不妊・不育ホットラインで、実際に電話相談に応じている女性カウンセラーによるエッセイを、不定期で配信していきます。

第1回 不妊・不育は繊細な喪失体験。心へのいたわり、大切です。

1997年に「不妊ホットライン」がスタートしました。また、2012年からは「不妊・不育ホットライン」として新たなスタートを切りました。開設からすでに四半世紀。情報や知識をいつでも入手し、発信できるようなネットワーク社会へと変化し、寄せられる相談内容にも変化がみられますが、まったく変わらないのは不妊・不育に直面している人の心の状態です。

人生には、とても大切なかけがえのない存在を失うことや、病気や事故でからだの機能を失うことなど、だれもが悩み、心の危機にさらされるような喪失体験があります。妊娠しても流産をくり返す不育、また、不妊も喪失体験のひとつです。

度重なる流産に苦しむ方たちは、生まれて育っていた子どもを亡くしたような深い哀しみを抱えています。「子どものいる四季折々の夢と人生があったはずなのに…」「いのちのバトンタッチができない」など、思い描いていた未来を失った哀しみの声も寄せられます。

「今月も妊娠しなかった。期待と落胆のくり返しがつらい」、「女としての自信をもてなくなった」「男として情けない」といった有能感や自己像の喪失。「親戚や友だちの集まりがつらい。どこにも居場所がない」「気の合う夫婦だったのに、危うさを感じて話しあえなくなった」といった関係性の変化と悩み。「体の周期に縛られた、産むためだけの性になってしまった」と語られるように、性と生殖が厳密に管理され、パートナーとの自然な性の親密性を失うという喪失も。

その他、多額の医療費や時間、エネルギーなども含めて、不妊・不育はさまざまなものを失う多重的な喪失体験と言えるでしょう。他のあらゆる喪失と同様に、衝撃や怒り、落ち込み、孤立感、悲哀などが伴います。身近な人の妊娠にも心を痛め、ときには怒りや嫉妬を感じるのも無理のないことです。ところが「友だちの妊娠を喜んであげられない自分が許せない」「私はいやな性格になってしまった」と自分を責めて苦しんでいる声がよく聞かれます。

こんなとき私たちは、話に耳を傾けて共感しながらも、「そんな気持ちになるのも人間なら当たり前。性格が悪くなったのではありませんよ」などと伝えています。するとほっとされて、泣き笑いとなることもありました。

このように不妊・不育は喪失体験であり、かつて経験したことのない困難にさらされる体験でもあります。当ホットラインは開設当初からそこに光を当てて、怒りも悲しみも喜びも、傷つきやすく繊細な心の動きも、だれもが安心して話せる場として開かれてきました。

話すことで初めて自分の本当の気持ちに気づくことがあります。心の痛みやストレスを和らげる助けにもなるでしょう。その人らしい医療の選択や生き方の選択へとつながっていくかもしれません。

なかには「妊娠できました!」と報告してくださる女性や、「妻との関係がよくなりました」という男性の声もありました。結果的に子どもを得られなくても、不妊・不育という体験をしたからこそ「気づいたこと、得られたことも大きかった」と語ってくださる方たちの声も寄せられています。

ときどき「あの…愚痴でもいいですか?」と遠慮がちに電話をくださる方がいますが、それも大歓迎のホットラインです。みなさんと同様の経験をしてきたピア(仲間)相談員として、これからも共に感じ、共に考えていきたいと願っています。

(東京都不妊・不育ホットライン相談員)

不妊・不育ホットラインカウンセラーの相談エッセイ